動物医療における椎間板ヘルニアは、発症の仕組みにより、ハンセン1型とハンセン2型の大きく2種類に分けられています。
まず椎間板とは背中や腰の骨(胸椎や腰椎)の椎体の間でクッションの役割を果たしている軟骨で、外側の繊維輪が内側の髄核を包んだお饅頭のような構造をしています。
ハンセン1型は椎間板の繊維輪(お饅頭の皮)が変性して穴が開き、中の髄核(お饅頭のあんこ)が飛び出して脊髄を圧迫します。このような発症の仕組みからハンセン1型は急性発症であることが多いです。
ハンセン2型は繊維輪が徐々に肥厚して椎間板の上を通っている脊髄を圧迫することで症状を起こします。そのためハンセン1型と違い症状はゆっくりと進行することが多いです。
症例
ミニチュア・ダックスフンド
症状:昨日から急に元気がなくなり腰のあたりを触ると痛がる
後ろ足がふらつく
犬種や症状から考えると、椎間板ヘルニアの可能性が高いです。
ダックスフンド、トイプードル、フレンチブルドッグ、ウェルシュコーギー、ビーグル、シーズー、コッカースパ二エル、ペキニーズ、パピヨンなどは軟骨異栄養性犬種と呼ばれ、遺伝的に椎間板ヘルニアを起こす危険性が高い犬種です。
しかし、昔救急で働いていた時に、「椎間板ヘルニアです」と紹介されたミニチュア・ダックスを診察したところ、お腹の中の腫瘍が破裂して血腹だったという経験もあります。
先入観で病気を決めつけてかかることは大変危険です。
身体一般検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、神経学的検査を行い後ろ足の麻痺以外に大きな異常がないことが確認できたので椎間板ヘルニアの疑いが強まりました。
次に行う検査はMRI検査です。
後ろ足の麻痺を起こす病気は椎間板ヘルニアだけではありません。
胸から腰にかけての脊髄に問題があるとそれよりも脳から遠い部分が神経的な麻痺を起こします。
脊髄に問題を起こす病気の中に椎間板ヘルニアがありますが、そのほかにも脊髄梗塞や腫瘍、椎骨の骨折や脱臼などがあります。
MRI検査では椎間板ヘルニア、脊髄梗塞、腫瘍などを鑑別します。
この症例は12個目と13個目の胸椎(背骨)の間にある椎間板が右側にハンセン1型のヘルニアを起こしていました。
脊髄の圧迫が軽度ではなかったため、内科治療による麻痺の改善に乏しい状況でしたので、MRI検査の翌日に手術を行いました。
術後は脊髄の圧迫が解除され、活動性も増して麻痺も改善傾向にあります。
急に後ろ足がふらつくようになった、急に元気がなくなり腰のあたりを触られるのを嫌がるなどの症状がある場合はご相談ください。