パテラ内方脱臼とは
パテラという言葉は小型犬の飼い主様の間では聞いたことある方が多いのではないでしょうか?
“パテラ”とは日本語では”膝蓋骨”、いわゆる膝(ひざ)のお皿の骨で英語で”patellar”といいます。
この膝蓋骨が内側あるいは外側に脱臼してしまうことを膝蓋骨脱臼といい、内側に脱臼することを内方脱臼(Medial Patellar Luxation:MPL)、外側に脱臼することを外方脱臼(Lateral Patellar Luxation:LPL)といいます。
また外方脱臼は珍しく、内方脱臼のほうが一般的です。
トイプードル、チワワ、マルチーズなどの小型犬に多い膝蓋骨脱臼ですが、柴犬やバーニーズ・マウンテン・ドッグなどの中型犬や大型犬にもみられます。また猫でもみられ猫の場合両側に(内側にも外側にも)脱臼する症例もいます。
グレード分類
膝蓋骨脱臼には重症度によるグレード分類があります。
グレード | 膝蓋骨 | 整復 |
1 | いつもは正常な位置にあり、人の手で力を加えることで脱臼する | 可能 |
2 | いつもは正常な位置にあるが、頻繁に脱臼する | 可能 |
3 | 常時脱臼しているが、用手で整復が可能(しかしすぐにまた脱臼する) | 可能 |
4 | 常時脱臼しており、用手で整復しようとしても正常な位置に戻せない | 不可能 |
一般的にグレード2の重度から3になってくると手術による整復が推奨されます。
自分のこととして考えると想像しやすいと思いますが、歩いていていきなりお皿の骨が内側にゴリッと脱臼すると想像すると、手術して脱臼しないようにしたいと思うのではないでしょうか。
2足歩行の人間と違い犬は4足歩行なので、人間で置き換えるのはある程度無理はあると思いますが、どうゆう状況なのかをイメージする助けにはなるのではないでしょうか?
また、グレード3以降では常時ひざの中の前十字靭帯に負荷がかかっている状態なので前十字靭帯の損傷など二次的な疾患を起こすリスクが高くなってきます。
パテラの内包脱臼は、脱臼を繰り返すことにより膝蓋骨が収まっている溝(滑車溝)の土手が削れて溝が浅くなり、より脱臼しやすい状態になることで進行します。
また、グレード3以降になると骨の変形などが起こってくることもあり、グレードが進行することにより一般的に手術の難易度が上がり、また術後の機能回復の程度も予想が難しくなります。
手術のタイミング
手術をするタイミングは施設・獣医師によって意見は様々で、コンセンサスの取れた手術の適用時期というのは今のところありません。
しかし、膝蓋骨脱臼による二次的な変形性関節症(OA)は進行性の病気であることを考えると、グレード2で脱臼する頻度が上昇してくるようであれば早めの手術を検討する必要があるのではないでしょうか。
ちなみに犬自身が膝蓋骨の脱臼に慣れてくると脱臼した時にケンケンするなどの症状が出ていた犬が、なんの症状も示さなくなり、飼い主が脱臼のことをあまり意識しなくなるということもよくあります。
特にグレード3の状態で症状がない犬は、前十字靭帯損傷や変形性関節症(OA)のリスクを放置していることになります。
とはいえ、すべての犬が手術を受けられるわけではないのが現実です。
手術を選択しない場合には内科的に変形性関節症(OA)の進行を緩和するなどの方法がありますので是非積極的に取り入れてあげてください。
膝蓋骨内方脱臼の整復手術
手術は脱臼の程度や個々の解剖学的特徴によって複数の手術手技を組み合わせて行われることが多いです。
一般的には
- 関節包・支帯の縫縮
- 内側広筋の切離
- 滑車溝増溝
- 脛骨粗面転移
などを組み合わせて行います。
グレード4で骨の変形等が重度の場合や、前十字靭帯断裂を併発している症例などは骨切り術などの手技が必要になるため、手術の難易度が上がります。
パテラの内包脱臼は両足に起きていることも多く、その場合には両足を同時に手術します。
そのほうが術後にすぐ両足を使ってくれるため、術後の回復が早いためです。
片足だけを手術した場合、手術による痛みや違和感で患肢を使うのを嫌がり、その間に筋肉量の低下やリハビリの遅れなどから機能回復が遅れてしまうこともあります。
まとめ
一般的に知られた膝蓋骨(パテラ)内包脱臼ですが、一般的だから放置していても問題ないわけではありません。
変形性骨関節症(OA)の進行や前十字靭帯断裂のリスクがあることを十分に理解し、手術が適用かどうか、手術を受けさせるか、内科管理で経過をみていくのかをしっかりと検討し、目をつむらずに膝蓋骨脱臼と向き合っていくことが大事です。
過去に膝が弱い、脱臼があるといわれたことがあるけどその後特に何もしていない、たまに膝が外れてケンケンするなど、わんちゃんの膝に関して不安や疑問をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。