FIP(猫伝染性腹膜炎)ウェットタイプの診断・治療の経過

今回はFIPウェットタイプと診断され、投薬により完治した症例の紹介です。

1歳4ヵ月 ノルウェージャンフォレストキャット 去勢済み♂

元気がなく、食欲が普段の30%くらいに低下したため、かかりつけの動物病院を受診したところ、
体温が40℃近くあり、またレントゲン検査で腹水が認められたそうです。
血液検査ではTP(総蛋白)9.3g/dl、グロブリン8.8g/dlと高値で、SAA(血清アミロイドA蛋白)107µg/mlと高値、貧血Hct22%がありました。

FIP(猫伝染性腹膜炎)が疑われましたが、かかりつけの病院ではFIPの治療ができないということで当院を受診されました。

来院当日

若齢で発熱、腹水、抗グロブリン血症、貧血となるとFIPの典型的な病態ですので、血液検査、レントゲン検査、超音波検査に加えて腹水を採取して診断を進めます。

来院時レントゲン画像(右ラテラル像)
来院時レントゲン画像(VD像)

お腹が腹水でパンパンなレントゲン画像です

エコー検査でも腹水があるとすぐにわかります

血液検査ではTP(総蛋白)10.5g/dL高値、グロブリン 7.9g/dL高値、貧血(Hct21.8%)に加え、脱水によるものと考えられる高Na血症172.0mmol/Lも認められました。
レントゲン検査、超音波検査では腹水を認め、その他腸閉塞などの異常所見は認めませんでした。
腹水は少量だと採取が難しいこともありますが、この症例の場合パンパンに溜まっていた為、問題なく採取できました。

腹水の院内検査では色調や濁り、蛋白濃度、細胞や細菌の有無などを検査し、消化管穿孔などFIP以外の疾患の除外を行います。

血液検査、レントゲン検査、超音波検査、便検査、腹水検査などから、FIP以外の疾患を除外出来たら、腹水をPCR検査に提出し、腹水中にFIPウイルスが検出されれば確定診断となります。

PCR検査は外注検査ですので、その日に結果が分かるものではありません。(結果が出るのは早くて翌日~4日後です)

入院

ほとんどの場合、元気減退、食欲減退があり脱水が認められるため、入院して点滴の治療を行うとともに、ほぼFIPだろうという状況なので結果を待たずに注射によるFIPの治療を開始します。

来院時には体温が39.3℃でしたが、治療開始翌日には38.6℃、翌々日には38.2℃と正常になり、食欲も3日後くらいから改善してきました。

退院

5日目から内服薬に切り替え、この時から退院は可能でしたが飼い主様の都合もあり6日目に退院して自宅ケアに切り替えました。

6日目レントゲン画像(右ラテラル像)
6日目レントゲン画像(VD像)

退院の時点では、レントゲン画像でもエコー画像でも腹水の量は、来院時と比較してあまり変化がないです

退院時の血液検査は入院時と比べてもよいものではありませんが(TP >12.0g/dLGLOB >9.4g/dLHct 15.4%)、発熱や元気・食欲などの症状が改善しており、投薬の効果は認められるので血液検査の結果もいずれ改善してくるはずです。(ストレスにより治癒を低下させる可能性があるため、いたずらに入院を長引かせることはしません)

退院1週間後

退院1週間後の再診で血液検査ではTP >12.0g/dLGLOB >9.4g/dLHct 15.9%、レントゲン検査では腹水はやや減っているがまだまだある状況でしたが、入院時から退院時に悪化していた血液検査の数値が下げ止まり、腹水も減少しているのでここからは血液検査の数値も改善に向かうだろうと予測できます。(まだ心配ではありますが…)
食欲や元気はというと、毎回ご飯を完食して走り回っており、調子はとても良さそうでした。
この時、便がやや柔らかいとのことだったので便検査をしたところコクシジウムが検出されたためプロコックスで駆虫を行いました。(下痢をしていると投薬しているFIP薬の吸収にも関わるのでしっかりと治療が必要です)

退院1週間後レントゲン画像(右ラテラル像)だいぶお腹がすっきり
退院1週間後レントゲン画像(VD像)だいぶお腹がすっきり

腹水が減り、お腹はだいぶすっきりしましたが、まだ腹水があるであろうレントゲン所見です

エコー検査でも腎臓や膀胱周囲をはじめ、腹水を認めます

退院3週間後

退院3週間後の再診では血液検査の改善がみられました。TP 9.8g/dLGLOB 7.2g/dLTP Hct 29.3%
元気、食欲も良好でした。
まだたまに軟便のことがあり、便検査でコクシジウムが検出されたため、再度プロコックスで駆虫を行いました。

退院3週間後レントゲン画像(右ラテラル像)
退院3週間後レントゲン画像(VD像)

まだレントゲン画像でも腹水を疑う所見がみられます

エコー検査でもまだ腹水が検出されます

退院5週間後

退院5週間後の再診ではTP 8.6g/dLGLOB 5.9g/dLTP Hct 35.4%と改善がみられ、腹水もほとんど検出できなくなりました。

退院5週間後レントゲン画像(VD像)
退院5週間後レントゲン画像(VD像)

この時点でやっとレントゲン画像で腹水を疑う所見がなくなりました。

退院7週間後~

退院週7間後の再診ではTP 8.0g/dLGLOB 5.3g/dLTP Hct 44.2%とさらに改善がみられ、腹水はごく少量検出されました。

退院9週間後の再診ではTP 7.7g/dLGLOB 4.9g/dLTP Hct 44.7%とすべて基準値内に改善し、腹水は検出できなくなりました。

退院11週間後の再診ではTP 7.7g/dLGLOB 4.9g/dLTP Hct 46.7%と経過良好で、引き続き腹水は検出されませんでした。
約3か月の治療を終え、ここで投薬終了となりました。

投薬終了後1か月の再診ではTP 7.6g/dLGLOB 4.8g/dLTP Hct 44.5%と再燃なく、完治としました。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療でお困りの方はご相談ください。

\ 症例紹介はこちら /
症例紹介


当院では動物病院で窓口精算できるペット保険(アニコム損保アイペットペット&ファミリー)に対応しております。

関連記事

  1. 子猫の成長日記①

  2. 里親募集を再開いたしました

  3. 子猫の成長日記③

  4. 内視鏡による異物摘出

  5. 体表にできた腫瘤・しこりの検査・手術

  6. 保護猫カフェの日常③

PAGE TOP