今回は猫の下痢の原因となるトリコモナス感染のお話です。
トリコモナスとは
トリコモナスは、微生物学的には、菌でもウィルスでもなく、原虫という寄生虫です。
寄生虫というと、「条虫」や「回虫」がなど便とともに出てくる細長い虫が頭に浮かぶと思いますが、トリコモナスは肉眼では見えないとても小さな単細胞生物です。
人の性感染症として膣トリコモナス症が有名ですが、猫に下痢を起こすトリコモナス(Tritrichomonas foetus)と人の膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)は種類が異なるため、猫から人や人から猫への感染の心配はありません。
猫のトリコモナス症
生後12か月以下の猫の場合、トリコモナスは腸管に寄生し、急性あるいは慢性の下痢を引き起こし、時には血液や粘液が混じることもあります。
感染経路は経口感染で、2分裂によって増殖し、トリコモナスが放出するプロテアーゼなどの分子によって消化管粘膜が障害され、下痢を引き起こします。
同じ原虫であるジアルジアやクリプトスポリジウムとの混合感染で重症化することもあります。
成猫では感染していても下痢を起こさないか、一過性の症状で終わります。
しかし、猫に下痢の症状が見られない・見られなくなったからといって、感染していない・感染がなくなったとは限りません。
成猫は感染していても下痢を起こす可能性は低くなりますが、それでも感染が持続しており、他の猫への感染源となる可能性があります。
診断
直接糞便顕微鏡検査
新鮮な糞便を生理食塩水で希釈し顕微鏡で観察することで、運動性のあるトリコモナスの存在を検出します。
新鮮ではない便では、トリコモナスの運動性が失われるため検出できません。
この方法では感染した猫の約 14% が検出されるため、決して感度が高い検査ではありません。
PCR検査
分析のために検査センターに外注します。
PCR 検査では、糞便からT. foetusの遺伝子を検出するため、現時点で最も信頼性の高い検査です。
サンプル中に存在する生きた微生物と死んだ微生物の両方を検出します。
治療
メトロニダゾール、チニダゾールなどの抗原虫薬が使用されます。
・チニダゾールでは完全な排除は困難だが排泄抑制にある程度効果があります。
・メトロニダゾールは耐性株が存在することから効果がないともいわれますが、経験的にメトロニダゾールでのトリコモナスの排泄抑制、症状の改善がみられることから地域差があると考えられます。(チニダゾールと同様に完全な排除は困難)
※過剰投与、長期投与で神経障害による散瞳、眼振、運動失調、斜頸などの神経症状に注意が必要。
抗原虫薬を使用しても完全にはトリコモナスを排除できない以上、若齢の猫は投薬を中止すると下痢やトリコモナスの糞便中の排泄が再発することが多いです。そのため、自身の免疫が十分になり、感染していても症状を起こさなくなるまでの間、投薬を継続する必要があります。
1歳未満の猫ちゃんの下痢でお困りの方は一度ご相談ください。