今回は避妊手術をしていない中高齢のわんちゃんが罹る、怖い病気のお話です。
子宮蓄膿症とは
子宮蓄膿症は”子宮内膜の嚢胞性増殖と細菌感染による炎症(子宮内膜炎)が起こり、子宮内に膿が溜まる病気”です。
この病気の発症には卵巣から出る黄体ホルモン(プロジェステロン)の関与が知られています。
発情のたびに黄体ホルモンにより子宮内膜が刺激され、嚢胞性増殖が悪化するため、高齢になるほど発症しやすくなります。
症状
- 元気がなくなる
- 食欲がなくなる
- 嘔吐
- 下痢・軟便
- 多飲多尿
- 重症例では起立不能や意識障害
診断
- レントゲン検査
- 超音波検査
- 血液検査
- 尿検査
子宮蓄膿症の診断自体はそれほど難しくありません。
年齢、性別、避妊手術の有無、外陰部からの排膿などの情報と症状から子宮蓄膿症が疑われる状況であれば画像検査によって子宮の写り方(正常な子宮はレントゲンには写らず、超音波でも描出困難です)を確認し、血液検査で炎症の数値が上昇していることを確認します。
この時、診断に必要な検査のみを行うのではなく、スクリーニング検査として肝臓、腎臓などの血液検査や胸部のレントゲン検査や尿検査なども行います。
理由は、子宮蓄膿症とはいってもその重症度は様々で、全身性炎症反応症候群(SIRS)から多臓器不全に陥っていたり、播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発していないかなどの重症度評価が、重症例の場合は治療の成功に欠かせないからです。
治療
一般的に膿の溜まった子宮を卵巣と一緒に摘出する手術(卵巣子宮摘出術)が推奨されます。
重症ではない症例は速やかな卵巣子宮摘出術により回復します。
それでも健康で若齢の頃に行う避妊手術に比べると、高齢で細菌毒素による全身性の炎症を起こしている子宮蓄膿症の症例は、心臓や腎臓などの予備能の低下に加え、末梢血管の拡張などにより麻酔の際の血圧の低下や術後の腎障害のリスクが高くなります。
そのため、麻酔前から行う輸液管理や手術中の麻酔・疼痛管理に気を配る必要があります。
また重症例になると合併症の管理など、術前からの準備が非常に重要となります。
術前管理
- 速やかに血管を確保し(点滴の管を血管に入れ)、点滴を開始
- 抗菌薬の投与
- 重症例では血圧の低下がある為、昇圧剤の持続点滴を開始
- 貧血が重度の場合は輸血を考慮
- DICを併発している場合、DICの治療を開始
- 可能であれば尿道カテーテルを設置し、尿量のモニタリング
手術
卵巣子宮摘出術
手術で行うこと自体は通常の避妊手術と一緒です。
しかし、膿が溜まった子宮はとても大きく、パンパンに張った状態です。
そのためお腹を大きく開けなければ子宮を体外へ取り出せません。
無理に子宮を引っ張り出そうとして破裂させることは避けなければいけません。
また通常の避妊手術時と違い、すべての血管が太く発達しているため出血のリスクも高いです。
確実な止血が必要です。
麻酔管理
血圧・循環の維持に努めます。
具体的には麻酔の量を極力増やさないように、痛みの管理と筋弛緩薬などを使用し、血圧や循環が低下しないよう努めつつ、それでも血圧の低下がみられるようであれば輸液や昇圧剤の量を調節し、管理します。
- 点滴
- 昇圧剤
- 鎮痛剤
- 筋弛緩薬
術後管理
術後にDICなどの合併症が顕在化したり、術後の腎障害を起こすことがある為、少なくとも数日間は入院が必要です。
重症例では尿量をモニタリングしつつ昇圧剤を徐々に減らしていく必要があるため、入院期間が長くなります。またDICやSIRSがある場合にはその治療を継続します。
血液検査の結果が改善に向かっており、元気や食欲などの全身状態が安定してくれば退院となります。
まとめ
子宮蓄膿症は小さいころに避妊手術をしていれば防げる病気です。
病気の予防の意識を高く持ち、きちんと手術を受けさせることも大切です。
また、もし避妊手術を行っておらず子宮蓄膿症になってしまった場合にも、適切な治療を受けることで多くの命は助かります。
子宮蓄膿症で命を落とすわんちゃんがいなくなることを祈っています。