今回はFIP(猫伝染性腹膜炎)のドライタイプのお話です。
FIP(猫伝染性腹膜炎)とは
FIPは猫を飼っている方の中ではとても有名で怖いウイルスの病気です。
FIPには腹水が溜まるウェットタイプ、腹水が溜まらずお腹の中に塊の病変を作るドライタイプ、脳に炎症を起こす神経症状タイプがあります。
そしてタイプによって診断の方法も異なります。
- ウェットタイプはお腹に針を刺して溜まった水を抜き、腹水をPCR検査することでFIPウイルスが検出されれば診断が確定となります。腹水の採取は、基本的には沈静や全身麻酔などは必要ありません。
- ドライタイプは腹水が溜まらないので腹水で検査することができません。お腹の中の塊の病変を採取し、PCR検査する必要があります。腹水を抜くのとは違い、お腹を開けて病変を採取する必要がある為全身麻酔も必要になります。
- 脳神経タイプはMRI検査が必要となりますが、年齢、発熱、高グロブリン血症、MRI所見等から総合的に判断してFIPであると診断します。診断の確定には脳生検が必要ですが、臨床の現場では現実的ではありません。
FIPドライタイプの症例
マンチカン 生後7か月 未去勢オス
1~2週間前くらいから食欲が低下して寝ている時間が多くなっていたため他院を受診
超音波検査でお腹の中に腫瘤があり、FIPドライタイプが疑われるということで当院を受診されました
(血液検査は未実施)
初診時に高体温(39.6℃)と総蛋白の上昇(TP>12.0)、グロブリンの上昇(GLOB>9.1)と、他院で指摘された通りお腹の中に3.3㎝を超える腫瘤を認め、FIPドライタイプが強く疑われました。
入院
もともと去勢手術の時期でもあり、またFIPと確定診断するためにはお腹の中の腫瘤を採材する必要もあったため、その日に去勢手術と開腹による腫瘤の生検(腫瘤の一部を採材)を行いFIPウイルスの検出のためにPCR検査に提出しました。
腫瘤は腫大した腸間膜リンパ節でした。
PCRの結果が出るまでに2~3日かかりますが、FIPである可能性は極めて高いため、結果を待たずにFIP治療薬を注射で開始しました。
食欲や元気が回復するまでは注射による投薬や点滴などが必要であるため入院管理となります。
治療を開始して2日後には熱も下がり(38.1℃)食欲も改善し回復が見られました。
またPCR検査の結果お腹の中の腫瘤からFIPウイルスが検出され、FIPであることが確定しました。
(FIPの治療薬は100%効果があるものではありません。FIPである可能性が高くてもFIPと診断を確定しないまま治療を開始した際に、治療効果が思わしくない場合、高価なFIPの治療を続けるべきかどうかの判断に悩むことになるでしょう。そのため、できる限り早い段階で診断を確定することが重要です。)
退院
発熱や食欲が改善したら注射での治療から内服薬の治療に切り替えます。
ここからは退院して自宅での投薬が可能となります。
検診
2週間おきの検診では
- 超音波検査:お腹の腫瘤の大きさの変化
- 血液検査:貧血、TP、GLOB、腎臓の数値、肝臓の数値
などをモニタリングしていきます。
合計で約3か月間の投薬を行いますが、この症例の場合
- 2日目に発熱と食欲が改善
- 2週目まで貧血の改善がみられなかったが4週目には基準値内に改善
- TP、GLOBの上昇は徐々に改善され6週目に基準値内まで低下
- お腹の中の腫瘤(腸間膜リンパ節)は縮小傾向
と投薬期間の半分(6週目)を経過していますが経過は良好です。
追記(2023.12.09)
3か月の投薬期間を終え、1か月後の再診でも元気・食欲ともに良好で血液検査やエコー検査の所見も異常がなかったため、完治と判断しました。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療でお困りの方はご相談ください。