肛門嚢とは?
肛門嚢(こうもんのう)とは犬や猫の肛門の左右にある一対の袋状の器官です。
その中にはイタチやスカンクのように独特の悪臭を放つ液体~ペースト状の貯留物が入っており、肛門を時計の中心として4時の位置に右の、8時の位置に左の肛門嚢の出口が開口しています。
この貯留物は、排便時に外側から肛門筋の収縮と内側からは便の通過により肛門嚢が圧迫されることにより開口部より排泄されます。
また恐怖を感じたときに肛門筋の収縮によっても排泄されます。
トリミングで「肛門腺絞り」といわれているのは、正確には「肛門嚢絞り」となりますが、一般的に「肛門腺」という言葉が俗称として使われているのが現状です。
肛門嚢炎・肛門嚢破裂とは?
肛門嚢が何らかの原因(多くは細菌感染)で炎症を起こしてしまうことを肛門嚢炎といいます。
さらに肛門嚢炎によって肛門嚢が破れて皮膚から排膿した状態を肛門嚢破裂といいます。
犬にも猫にもみられる疾患です。
肛門嚢炎・肛門嚢破裂の原因
肛門嚢の開口部が細菌感染による炎症などで閉塞してしまったり、貯留物を排泄する能力が弱い場合に貯留物が停滞してしまい、そこに細菌感染が加わることで肛門嚢炎が起こります。
また肛門嚢炎が悪化すると、膿の貯留や肛門嚢の一部が壊死することにより肛門嚢が破れて膿が漏れ、周囲の組織に炎症が広がります。
さらに皮膚から膿が排泄されるようになると肛門嚢破裂として診断されます。
肛門嚢炎・肛門嚢破裂の症状
多くの場合、肛門周囲に不快感を覚え、肛門を舐めたり、肛門を床に擦りつけたり、抱っこする際に下半身を触られるのを嫌がったりするなどの症状を示します。
肛門嚢破裂の場合、肛門付近の皮膚に穴があき、膿や血膿が出ることもあります。
肛門嚢炎・肛門嚢破裂の診断
視診と触診により診断を行います。
触診では肛門から指を入れる直腸検査にて肛門嚢の腫脹であることの確認と肛門管に異常がないことの確認を行います。
また、背景に細菌感染だけではなく腫瘍がある可能性もあるため、治療を行いながら慎重に経過観察する必要があります。
肛門嚢炎・肛門嚢破裂の治療
軽症の場合、肛門嚢を絞って溜まりすぎている貯留物を排泄させます。
細菌感染により炎症がひどい場合や化膿している場合には抗菌薬の投与を行います。
また、皮膚に穴が開いて排膿している場合には生理食塩水などで洗浄し消毒します。
肛門嚢破裂により皮下に膿瘍を形成している場合には皮膚を切開して膿を出すこともあります。
このような細菌感染の場合、皮膚にあいた穴は縫合したりせず、あえて開放した状態にして皮下に再び膿が溜まらない状況にします。
多くの場合はこうした処置・治療で治癒に向かっていきますが、治療が好奏しない場合や再発を繰り返す場合などは、外科的に肛門嚢自体を摘出することもあります。
下の写真は、内科的治療ではあまり改善がみられなかった慢性肛門嚢炎の症例で、腫瘍の可能性も考慮し肛門嚢摘出(両側)を行った症例です。
肛門嚢摘出の手術後は一時的に便失禁が起こることもよくありますが、その多くは2週間から1か月ほどで徐々に改善してきます。
肛門嚢炎・肛門嚢破裂の予防
定期的に肛門嚢を絞り、貯留物の状況や肛門嚢の腫れなどを確認することが一番の予防です。
シャンプーやトリミングの際に定期的に絞りましょう。(シャンプーと同じく1か月に1回が目安です)
絞り方には少しコツがいります。
また、体系や骨格、筋肉量などによっては肛門腺を絞るのに肛門に指を入れて肛門の内側と外側から左右別々に絞ってあげる必要がある子もいます。
まとめ
肛門嚢の分泌物は、通常自力である程度排泄することが可能です。
しかし、下痢や便秘などの体調不良、ストレス、加齢による代謝の変化、肥満などの要因が分泌物の性状変化や排泄不良を引き起こし、肛門嚢炎や肛門嚢破裂のきっかけとなることがあります。
肛門を舐めたり、お尻を床に擦りつけたり、肛門を気にするようなしぐさをする場合には、早めに動物病院にご相談ください。