犬の根尖膿瘍(下顎骨骨折)

今回は重度の歯周病で顎の骨が溶けてしまった症例の紹介です。

この子はもともと繁殖犬だった保護犬で出産の経験があるそうです。
譲渡されお家に迎えた時から歯石が重度に付着しており、口臭もひどいということで歯科処置を希望されました。 人でも出産を重ねるとホルモンバランスの影響などで歯周病が悪化するそうです。
確かにブリーダーから引き出されてきた保護犬の歯科処置もこれまで多く行ってきましたが、年齢の割に歯石の沈着が重度で残っている歯の数も明らかに少ないと感じていました。
この子の場合も同様で、歯石の沈着が重度で下顎の犬歯が片方変な方向に向いていました。
診察では歯の痛みのせいで口を触られることを嫌がり、口の中をしっかりと観察することはできなかったので、麻酔前の検査を行ったうえで全身麻酔をかけて口腔内の観察、歯のレントゲンを撮影しました。

歯科レントゲンでは歯根周囲の顎の骨(歯槽骨)が広範囲に溶けているのが分かります。
また犬歯の部分では完全に顎の骨がなくなり、犬歯よりも前に顎の骨がなくなっているのが分かります。
これはおそらく過去に歯根膿瘍によって顎の骨が薄くなり、骨折を起こして骨が吸収された結果だと考えられます。

この子の場合は残っているすべての歯に抜歯の必要があったため全抜歯となりました。
抜歯することにより、歯周病菌の温床となっていた歯根と歯槽骨の空間だった場所に、新たに組織が重鎮されることで口内環境が改善されます。
根尖膿瘍による痛みや口臭といった症状も改善され、また根尖膿瘍の進行による下顎の骨折のリスクも減らすことができました。

歯の痛みもなくなり、口臭も改善されてこれから飼い主さんとの触れ合いがより一層多くなってくれるといいですね!

この子のように低体重ですと麻酔のリスクは多少上がりますが、適切な麻酔と術中のモニタリングを行うことで安全に歯科処置を行うことができます。小型犬ほど下顎の骨が細く、顎の骨折のリスクが高いため、日頃のデンタルケアと定期的な歯石除去が重要になってきます。
低体重・高齢・心疾患などで歯石除去を諦めている方がいらっしゃいましたら、気兼ねなく当院へご相談ください。

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